東京地方裁判所 昭和38年(行モ)8号 判決 1963年6月06日
申立人 大橋光雄
被申立人 文部大臣
訴訟代理人 片山邦宏 外四名
主文
本件申立てを却下する。
申立費用は申立人の負担とする。
理由
本件申立理由の要旨は、「被申立人は、昭和三七年七月一〇日学校法人紛争の調停等に関する法律(以下「調停法」という。)第三条に基づいて、申立人を当事者の一人として調停開始決定をし、調停委員を任命して調停手続を進めているが、調停法は憲法に違反する無効な法律であるから、調停手続が続行されると、憲法違反の法律が通用する状態を招くことにより公益が侵害されるほか、申立人個人の私益の面からみても、同法第一〇条により申立人が学校法人名城大学の理事長の職を解任される危険に晒され解職による損害が生ずる虞がある。そして、これらはいずれも回復の困難な損害であるから、これを避けるため調停手続の続行の停止を求める緊急の必要がある。」というのである。そこで、検討するのに、申立人が学校法人名城大学の理事長の職にあること、被申立人が昭和三七年七月一〇日調停法第三条に基づいて調停開始決定をし、調停委員を任命したうえ申立人を当事者の一人と指定して調停手続をすすめていること、調停委員長大浜信泉は「学校法人名城大学の役員および評議員ならびに名城大学学長とされている者は、すべて辞任することとし、辞表を調停成立後調停委員が指定する日までに調停委員に寄託すること」という調停事項を含む「学校法人名城大学調停案の提示および受諾勧告について」と題する昭和三八年六月二一日付書面を申立人に送付したことは、いずれも本件記録中の疏明資料によつて一応認められる。しかしながら、抗告訴訟が個人の権利投済のために認められているところからみて執行停止によつて保全される権利ないし利益も申立人個人に関連するものに限られると解すべきであるから、申立人が挙げている公益上の損害のみでは本件停止申立ての要件としての損害にはあたらないものというべく、また、申立人は調停に応じなくても必然的に解職されるわけでなく、解職のためには、さらに別個の要件および手続を要することは調停法の規定に照らして明かであり、しかももし解職された場合は、その解職処分を争つて出訴し、処分の効力の停止を求める途もあるのであるから、現在の段階においては、まだ、調停手続の続行により生ずる回復困難な損害を避けるための手続の続行を停止しなければならない緊急の必要性があるとは認められない。
よつて、その余の点につき判断するまでもなく、本件申立てを却下することとし、申立費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主交のとおり決定する。
(裁判官 位野木益雄 田嶋重徳 小笠原昭夫)